岩本 健(いわもと けん)
<経歴>
1925年 和歌山県生まれ。詩集『人の木』『水の神』『泥河のほとり』『あかんぼう』『電車』『にがい塩』『蟹』『群像』『天空』『雪野原にて』『習作』『もしかして』『A・B・C…』『花の詩』『赤裸々の神』『蟻さん』『黄色の花をあげるから』『XYZ』『岩本健詩選集①一五〇篇』
<所属>
「日本詩人クラブ」「関西詩人協会」「詩人会議」「青い風」「俳句人」
<詩作品>
山田万作
散歩していると フト
山田万作に会えるような気がした。
ふりかえると、そこに10年ぶりの
山田万作の顔があった。
山田万作も ぼくと
逢うような 感じがしていたらしい。
人間には超能力があるのかな、と言うと
山田万作は
「愛する者とは別れなければならぬ
苦しみがある。
憎たらしい奴とはめぐり会わねばならぬ
苦しみがある」と、
スタコラどこかへ行ってしまう。
虫が知らすという事がある。
今、ぼくが暗殺されるという
予感がして 後をふりむくと
暗殺者の顔がそこに在ったら
どうしようと思う。
けれども暗殺される人は
金力・権力・名誉をたっぷり持った人…
ぼくには、そのいずれも持ち合わせがない。
だから、ふりむいても
山田万作という
間抜けづらが在るばかりで、
ぼくの生命は安全…
山田万作よ、
また、どこかで
ひょっくり逢おうと
ぼくは
ひとりごとを言う。
もしかして
もしかして
もしかして
もしかがしたなあ。
あの長い唇が垂直に垂れて
もしかして
もしかして
もしかがしたなあ。
あの長い唇が日の光に
暗黒の色に変っていく。
もしかして
もしかして
その「もしか」が現実になる、
近づいてくるのはその「もしか」だ
もはや 許されることはない。
あの長い唇は
ナイフの様にぼくの首をつらぬく、
もしかして
もしかして と
絶叫しながらぼくは息絶える。
「もしか」は立っている
「もしか」の長い唇は
射精の終った陰茎の様に垂れきって
泥土に濡れる。